リケダンリケジョが陥りがちな罠2/3 日本語の罠
|||日本語は迷いの宝庫
日本語の罠についてです。
英語はとてもシンプルです。それに対して日本語は複雑です。
シンプルな言葉からはシンプルな思考が生まれます。
複雑な言葉からは複雑な思考が生まれます。
これは、日本語が劣っていると言っているのではありません。もしかしたら、悩むこと
について、最も優秀な言語かもしれません。その特徴は、細やかで、多様な表現を持っていると言う点です。
日本語は悩みをより深く考察できるツールだと思いますが、ひるがえって、初心者にとっては、使いこなせず、迷路に入ってしまうトラップにもなりかねません。
過去の作品を引用して見ましょう。過去に文豪と呼ばれる人たちがいましたが、ついぞ、ポジティブなイメージがありません。
どこか影がありますね。
はたらけど
はたらけど猶わが生活楽にならざり
ぢっと手を見る
(石川啄木)
悩んでいますね。
世は今、いみじき事に悩み
人は日比谷に近く夜ごとに集ひ泣けり
われら心の底に涙を満たして
さりげなく笑みかはし
(高村光太郎)
悩んでいます。
ポジティブな文豪はなかなか見つけることができません。
でも、ネガティブの代表ともいえる、太宰治はこんなことも行っています。
笑われて笑われて強くなるんだよ。(太宰治)
失敗してもめげずにがんばれば強くなれる!
と、言っているのだと思います。
ただし、笑われ続けている自分を嘲笑しているだけなのかもしれません。強くなれなかった自分に対する皮肉かもしれません。
ポジティブな言葉にも、ネガティブの影が付きまといます。
笑われて笑われて強くなるんだよ(´・c_・`)
笑われて笑われて強くなるんだよ(///ω///)♪
笑われて笑われて強くなるんだよwww
太宰先生が絵文字を知っていたらどれを使うでしょうかね(笑)
これは、日本語の罠がそうさせているのではと私は考えました。
言葉のプロとして日本語をツールとして模索していると、迷路に迷い込む確立も高くなるのではと。
日本語で考えると、迷路に入り込みやすい
のではないかと思うのです。
かの文豪たちは、病気にかかってしまった方や、境遇に恵まれなかった方も多いのですが、みな、それぞれの真理を求めて文章の中で旅をしています。
そして、その旅に迷い、迷走し、やがて芸術へと昇華させて行きます。
|||「悩み」と「迷い」の違い
「悩み」と「迷い」の違いについてですが、みなさんはちゃんと区別していますか?
そもそも、「悩み」と「迷い」の違いがわかりますか?
私がこの違いを考えるようになったのは、漫才師の上岡龍太郎さんが憤慨しながらこう言っていたのを聞いてからでした。
「人がよく、悩んでいるなどと言うが、私から見れば、それは悩みではなく、迷いだ」
悩みと迷いと言う言葉、同じ意味ではないの? と思う方も多いでしょう。
確か、こうも言っていました。
「悩みとはもっと崇高なものだ」
悩みは崇高で、迷いはくだらない。
それほど大きい違いがあるのでしょうか。すぐに辞書で両者を調べてみました。
なやみ【悩み】
1 思いわずらうこと。心の苦しみ。「―の種が絶えない」
まよい【迷い/紕い】
1 迷うこと。心が乱れて判断がつかない状態。まどい。「行動に―を生じる」「一時の気の―」
両者の違いが明白にわかりましたか? 人に両者の違いを説明することができますか?
では、同じように両者を和英辞典で調べてみましょう。
なやみ 悩み
trouble(s); worry; 【形式ばった表現】 distress
〈苦悩〉 agony; 【形式ばった表現】 anguish
〈問題〉 a problem
心の悩み anguish of heart
生活の悩み troubles [worries] of life
悩みがある have worries、be in trouble.
まよい 迷い
〈当惑〉 【形式ばった表現】 perplexity; 【形式ばった表現】 bewilderment
〈疑惑〉 (a) doubt
〈迷夢〉 (an) illusion; 【形式ばった表現】 a delusion
<ためらい>indecision
いろいろな言葉が並んでいますが、この対比から何を汲み取って欲しいかと言うと、英語の表現は、より具体的であるということです。
例えば、生活の悩みはtroubles トラブルであり、お金を払えないことはproblemプロブレムです。
英語では悩み事に対して、解決法を模索する前向きな姿勢が感じられるほどです。
迷いの英語訳はどうでしょう。私はどれもしっくりこないと言う印象でした。
迷いを正確に英語に翻訳することは単語レベルでは難しいのではないでしょうか。
もしかしたら英語圏の人は迷うことも少ないのかもしれません。
doubtは、疑惑を持っていることははっきりしているので、迷いとはかけ離れた言葉のようにさえ思えます。
indecisionは、ためらいという意味ですが、他に優柔不断、不決断とも訳されます。
日本語は悩みを解決することには向いていないかもしれない。
|||E=mc^2から気が付かされた日本語のあいまいさ
日本語のあいまいさについて考えていたとき、私はこんな経験をしました。
きっかけは、相対性理論でした。
E=mc^2
この方程式を見て、あなたはどう感じますか?
簡単ですか? 複雑ですか?
単純ですか? 難しいですか?
私は、この式を見て、単純だと思いました。
しかし、友人はこう言ったのです。
「相対性理論っていうのは、そう単純なものではない! ものすごく難しいんだぞ!」
さて、私と友人は意見が対立し、争いました。
しかし、争いの争点は、実は、単なる勘違いだと、しばらくして気がつきました。
私が感じた事を詳しく言うと、
「相対性理論って、ものすごく難しくて、私などには簡単に理解できないかもしれないけれど、その根幹となる式が、なんと見事に単純なのだ!」
ということでした。
友人が感じたのは、
「式は単純そうに見えるけど、相対性理論というのはとても難しくて、君などには簡単に理解できないものだ!」
違う印象を受けるけれども、実は同じことを言っているのです。
英語訳してみましょう。
※特殊相対性理論:the special theory of relativity (略STOR)
I said
"「STOR is difficult」 for me, but 『the formula is very simple』"
”STORは私には難しい、しかし、その式は単純だ”
He said
"『The formula is very simple』 but 「STOR is difficult」 for you"
”式は単純だ、しかし、あなたにとってSTORは難しい"
前後の文が入れ替わっただけで、どちらも
相対性理論=difficult、 数式=simple と言っています。
言い争う必要など無かったのです。
私は日本語のあいまいさが誤解を生んだのだと気がつきました。
あいまいさを伝えるために、ちょっと意地悪な書き方をしました。
初めにあなたに聞いた質問です。
簡単ですか? 複雑ですか?
単純ですか? 難しいですか?
違和感を感じたでしょうか。本来はこう聞くべきです。
簡単ですか? 難しいですか?
単純ですか? 複雑ですか?
「簡単」の対義語は「難しい」 easy<=>difficult
「単純」の対義語は「複雑」 simple<=>complex
|||単純と簡単は同じ意味?
しばしば、単純と簡単は混同して使われます。
同じように簡潔、簡素、容易など似たように用いられる単語がいろいろありますし、
簡単を辞書で調べると、『単純なこと』と言う言葉も出てきます。
もともと明確に分かれていないのです。
簡単と単純
easyとsimple
の違いについて、考えているときに、
上岡氏の言葉を思いだしました。
悩みと迷い
そうだ、悩みと迷いの言葉の意味を明確にできずにいるために、
自分が悩んでいるのか、迷っているだけなのかすら、気がつくことができないんだと。
誤解の無いように、もう一度言っておきますが、日本語が劣っていると言っているのではありません。
逆に悩むことに長けているために、日本独自の多様な情緒が育ったのだと思います。
しかし、その多様さゆえに、迷路に迷い込む機会も多くなる。
悩む必要の無いことまで悩んでしまう。
あなたの抱えている悩み事は、本当に悩みと呼んでよい物でしょうか。
これから
悩み=trouble 解決すべき課題
迷い=indecision ためらい 不優柔不断 早急に切り上げるべき事
と定義してみませんか?
論理的で合理的ではないですか?
インテリと呼ばれる人たちが外来語を多用する気持ちがちょっとわかったような気がします。
日本語は主語を省略して話すことが多い点も重要です。
5W1Hで話しなさいと言われたことがありませんか?
いつWHEN 誰がWHO どこでWHERE どうやってHOW 何をWHAT なぜWHY
わざわざアルファベットで5W1Hと言わなくても……と思っていましたが、これも似たような意味があるのかもしれません。
英語で考えることはsimpleなのです。
(easyではないですけどね笑)
|||日本語を正しく理解して悩もう
論理思考はリケダンリケジョにとって強力な武器です。
しかし、日本語で論理思考をしていると、気が付かないうちに迷路に迷い込んでしまうことがあります。
さらに、頭の中では論理的だったのに、言葉にすると誤った意味にとらえられてしまうあいまいな言葉になっていることがあるのです。
この罠に注意して、上手に日本語を使ってください。